#12 くりかえす不能の先に(後)
(今回の記事は前後編の後編です)前編で引用した『セカイからもっと近くに〜』における「不能性」は、時代によって要請された、あるジェネレーションの作家にとっての一条件として語られている。だから、わたしが自身のうちに認めるそれとはもちろん同一視はできないけれど、それでも「ループのモチーフにこそ絶望への抵抗が宿る」(p.105)とする創作のありかた、読み方に出会えたことはまぎれもない僥倖だった。
後付けのようになってしまうが、わたしが(maco maretsというプロジェクトのうちで)明確に「ループ」の構造を意識したのは三作目のアルバム『Circles』(2019年リリース)であったと思う。表題からして円環のイメージである。
当時の自分は、クラシカルなヒップホップのトラック、あるいはビート、呼び方はなんであれラップボーカルを乗せるサウンドそのものが、短いサンプリング・フレーズのループで成り立っていることに(遅まきながら)気づいた……そして、音楽的にもドラスティックな展開をみせず、むしろ限られたコードのうちで反復し続けているというそのあり様が、自分の書く歌詞や歌のつくりと影響しあっているのではないか、という思いつきにとらわれたのだった。
ループするトラックの上では、まるで環状線のように、言葉も堂々巡りを繰り返す。明確な出発地点も、目的地もない。だから、曲の中でひとつの方向に収斂するような、なんらかの「回答」や「解決策」を提示しえない。『Circles』の時点で、maco maretsの楽曲はほとんど例外なくそうした円環のうちに存在するものだったのだ。
わたしは決してこれをネガティヴ一辺倒に捉えているわけではない。『Circles』のほか『Orang.Pendek』『KINŌ』をくわえた初期三作のトラックはすべてプロデューサーの東里起(Studio75/Small Circle of Friends)氏の手によっていて、そのほとんどは特定のフレーズのワンループで成立しているが、なによりそのループの美しさ、ミニマルな構造のなかで繊細な表情のひだひだを再現せしめる東氏の手腕にこそわたしは惚れ込んでいたのである。そこにはたしかな美学があった。
それに、そもそも「回答」など提示することができると思えないのだ、その種の欺瞞に陥ることも不誠実ではないか……。
ただ、ここで言いたいのはmaco maretsの曲作りにはもともとある種の「ループ構造」が組み込まれていたということ、そしてそれを自覚したことが、おのれの詩作に対するスタンスとも重なり合うことで「書けなさ」をそのままに歌い続けるということが可能になっていた(明瞭な言葉遣いを忌避するような態度を正当化し続けてきた)という粗雑な分析である。
同時に、このような「書けなさ」をぐるぐるとおのれのうちに蓄積することが他でもない不能の感覚を呼び覚ますことに繋がっていたとも言える。混迷をきわめるこの時代に、なにか「回答」を出さずしてものを歌う意味があるのか? そんな焦りのようなものを覚えずにはいられなかったのだ(直近のリリース曲のひとつ『Yesterday』では、曲の最後でそのものずばり「答えをおくれ」と歌っている)。わたしはなにを歌えるのか。 歌いたいのか。 もちろん、答えはその辺を探して見つかるようなものでもない。誰かが与えてくれるわけもない。
そんなときに出会ったのが『セカイからもっと近くに〜』の「ループの維持そのもの、不能性の徹底的な自覚そのものに希望を見出す」(p.111)という表現であり、ああ、やっとここまで帰ってきたけれども「免罪符を得たようなこころもちになった」というのはつまりそういうことなのやった! 目的地を見出せないのならば、その不能性のなかに留まりつつ、繰り返し行為し続ける、希望に至るまでひたすらにループし続ければいいではないか……とそんなありかたに、わたしは大いに共感したのである。
(この「共感」は、わたしがいわゆる「ループもの」と呼ばれるような構成の小説・映画・アニメetc.が、あるいは死に戻りを繰り返すなかで成功、勝利をつかむというテレビゲーム的な経験が、ある種の定番となった世代であるからなのか? そのへんはまた別の機会に)
現在制作している第六作は(このブログでも繰り返し書いているけれど)「Waterslide」三部作の完結編となる。わたしにとって、一連のシリーズはウォータースライダーのようにわたしたちを押し流す時代の大波に飲まれてなお、ただ喜びを希求し生きようと態度する、そのアティチュードを示すための作品である。
そうだ、不能の再生産に甘んじないためにも、それは行為の手前の「態度する」段階においての自覚でしかありえない。「書けなさ」のうちにいて、しかし硬直せず、愚直に円を描き続けること。それがいまの自分にできる精一杯の「回答」方法なのだと、信じてみている。
おしらせ
・連続配信シングル第4弾『Spring Journal (feat. Taisuke Miyata)』好評配信中
配信先はこちら→https://linkco.re/yZC4npcr
・Mime One-Man Live 2022 ゲスト出演決定
2022年4月29日(金・祝)、東京・渋谷WWWにて開催されるMimeのワンマンライブにゲストボーカルとして出演いたします。
詳細は下記サイトをご覧ください。
https://eplus.jp/sf/detail/3509190001?P6=001&P1=0402&P59=1
・街なか音楽祭『結いのおと』出演決定
2022年5月7日(土)、茨城県結城市にて開催される都市型音楽フェス『結いのおと』に出演します。
(現在発表済みの出演アーティスト)
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC/スカート/yonawo/サニーデイ・サービス/TENDRE /ぷにぷに電機/思い出野郎Aチーム/GOMA meets U-zhaan/VivaOla /YonYon /C.O.S.A./Nenashi/bird/空音/ぜったくん/maco marets/macico /栞寧 ...and more!!
詳細は下記サイトをご覧ください。
yuinote.jp/posts/32320946