#13 またはじまったこと
もう十日ほどまえになるけれども、この四月頭、maco maretsはついにライブ活動を再開することになった。渋谷で開催のサーキットイベント「SYNCHRONICITY'22」そのいち会場で、三十分間音を鳴らす機会をいただいたのだ。
ウイルス禍を受けて中止としたまぼろしのワンマンライブののちステージを退き、それからいっさいのオファーをお断りしていたわたしにとって(あいまに客演でのイベント出演こそ数回経験したものの)、およそ二年と一ヶ月ぶりの表舞台だった。
それなりに長いブランクを経ての復帰ライブである。かんじんのパフォーマンスがいかなる出来だったのか、それは会場にいた稀なる方々の胸に聞くほかないけれど、ええ、ただひとつ言えるとすれば大いに(それはもう、おおいに!)こわばった顔面を聴衆に晒していたであろうということ、わたし自身の感覚で告白すると「頭が真っ白になった」と月並みな句でもって形容するほかないような、あれほどに視界の狭窄する体験もなかなか無かろうか、とかく具体的な実感も湧かず、ただじんわりとした痺れのような、かすかな余韻だけが残る夜であった。
そこには、なにかを「達成した」という種の感慨はない。しかし思い返してみれば、これまでだってそうだったのだ。
しばしの回想にお付き合い願えば……わたしが「ラッパー」として本格的にステージで歌う活動をはじめたのはもう十年近く前(!)、大学進学にあわせて上京した十八歳のころ。最初は渋谷のどこぞというクラブであったか、東京でのライブデビューを飾ってから少なくとも月に一回程度はステージに立っていたし、それは件のウイルスが蔓延る2020年の春までの約七年間ほど途切れることのない習いとして続いていた(自ら主催したパーティのほか、ゲストとしてマイクを握らせてもらうイベントも非常に多かった。そのありがたみをどれほど理解できていたか)。
じっさいのとこ、わたしにとってのライブはルーチンワークと言ってもいいほどに自然な日々の営みだったけれど、しかし同時にちょっぴり迷いを引き摺ってもいて、だってなぜ人前でマイクを握り、歌うのか。歌わねばならないのか? お客さんはほんとうに喜んでくれているのやろか? ごにょごにょ、回数を重ねども重ねども、どこか空を掴むような感覚があったのもまた事実なんである。
だいたい「『ラッパー』ならライブするでしょ」となんの考えも疑いも持たずはじめたもんだからいけない(当初は正式な音源リリースなど経験したこともなかったから、むしろ「おのれが『ラッパー』たる唯一の根拠が/言い訳がライブ活動であった」とも言える)。いや、いけないことはないけれども、そこからステージングのあり方を追究するならともかく、漫然と同じような内容を繰り返していたことを否定できぬ。
そうした意味では、CDデビューを経て、初期三部作を完成したその総決算として企画された先述のワンマンライブこそ、どこかでライブに対して及び腰ななわたし自身が一皮剥ける……具体的には一時間を超えるワンマン・セットを完遂し、一定のステージをこなす自信と実力を身につける、その可能性を秘めた場になるはずであった。結果的には開催直前で中止となってしまったわけで、二度とないタイミングを逃してしまった、ああいった機会はそうそう訪れるわけもなく「もしも予定通り開催されていたら」とむなしい想像にふけることもある。
とはいえそれも過ぎたこと。今回、ライブ復帰を決めた理由には時勢ももちろん関係しているけれども、なぜ歌うのか? その問いはまず「歌う」その行為のうちにしか立ち上がらぬものだと気づいたことが大きい。そもそも用意された解答などあるはずもなく、おのれの身をもって確かめるほかないのは自明である。
けっきょくは、先週ここで書き散らした「ループに希望を見出す」話と同じ結論にいたる。これからまたステージに立つ機会も増えてくると思うけれど、その渦中で喜びを感得しうるかどうか、「希望」はあるのかどうか? 繰り返し、繰り返し、そのときどきでベストな態度を、決めポーズをとってゆくしかないのだろう。さながらK-POPアイドルのような、徹底された表情管理とはほど遠いクオリティだとしても……、こわばったしかめッつらよりもうすこし、ましな顔をみせられたらいい。
おしらせ
・連続配信シングル第4弾『Spring Journal (feat. Taisuke Miyata)』好評配信中
配信先はこちら→https://linkco.re/yZC4npcr
・Mime One-Man Live 2022 ゲスト出演決定
2022年4月29日(金・祝)、東京・渋谷WWWにて開催されるMimeのワンマンライブにゲストボーカルとして出演いたします。
詳細は下記サイトをご覧ください。
https://eplus.jp/sf/detail/3509190001?P6=001&P1=0402&P59=1
・街なか音楽祭『結いのおと』出演決定
2022年5月7日(土)、茨城県結城市にて開催される都市型音楽フェス『結いのおと』に出演します。
(現在発表済みの出演アーティスト)
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC/スカート/yonawo/サニーデイ・サービス/TENDRE /ぷにぷに電機/思い出野郎Aチーム/GOMA meets U-zhaan/VivaOla /YonYon /C.O.S.A./Nenashi/bird/空音/ぜったくん/maco marets/macico /栞寧 ...and more!!
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yuinote.jp/posts/32320946