#34 ドリームウォーカー(All-New Sandwiches)

さいきんみょうに眠りが浅くって、嫌な夢ばかりみる。嫌な夢と言ってただゾンビや幽霊に襲われるとか、そんな類なら別に良いのだが、めっぽう恐ろしいことにだ、毎夜はっきりと目に浮かぶのは「ライブステージで失敗する」というビジョンなんである。

実はこうした悪夢を見るのは初めてではなく、むしろ度々、わたしは夢枕で凄惨なライブを演じている。喉がかすれて声が出ない。歌詞を忘れる。機材のケーブルを引っこ抜いてしまい、音が止まる。足を滑らしステージから転げ落ちる。などなど、枚挙に遑がないが、とかく思いつ限りの「失敗」パターンを、まるでスーパー・コンピュータが災害シミュレーションを行うがごとく(とそんなにおおげさ&ロジカルに整理された内容ではもちろんないことは置いておいて)、再生しては冷や汗とともに目覚め、また再生しては震えながら目覚め、としているわけなのだ。

そういえば今年公開されたマーベルのヒーロー映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では「わたしたちが普段みる夢の内容というのは、この世界とは別の可能性を辿った並行世界の自分が実際に体験している出来事なんである」というように新鮮な解釈というか、設定を披露していたけれど、それに則るとそうした可能世界、マルチバース上に存在する無数のmaco maretsたちは皆、ライブステージで醜態を晒しまくっているということにもなる。逆に過剰な賞賛を浴びる自分を夢見てもいいはずなのに、みな決まってめためたにこき下ろされているのだ、想像するとあまりに滑稽だが、彼ら別次元の自分には心底同情せざるをえない。

ただ実際のとこ、この夢の裏を探るには突飛な「マルチバース理論」どころか夢占いも精神分析も必要ないことを知っている…… これは、今月末に迫った人生初のワンマンステージ(詳細はこちら)に対する不安がそっくりそのまま表れているに違いない。なんとわかりやすいつくりの人間か、と自分でも呆れてしまうけれど、単純にひとつの可能性としてありうるその場面を繰り返し生産するというのは、意識の底によほどの怯えがひそんでいるからだ。

(そもそも夢で描かれる情景には実体験も多分に含まれている。先ほど並べ立てた「失敗」のイメージ……喉がかすれて声が出ない。歌詞を忘れる。機材のケーブルを引っこ抜いてしまい、音が止まる。足を滑らしステージから転げ落ちる……など、すべて再現済みの出来事がベースにあるのだった)

どこかでも書いた気がすることだが、ライブに対する苦手意識というのは常に拭い去れずあって、理由はいくつも思いつく、ただそれを列挙することもまた読者の皆さんにとってずいぶんネガティブな印象を与えてしまうだろうし(などと書くと余計に思わせぶりだということも理解しているつもりだけれども)、ひとつ言うとしたら単なるあがり症、恥ずかしがり屋、あるいは自意識過剰とも呼べる、そんなたちが根っこにあるのかもしれぬ。誰かから、何らかのジャッジを受けることが怖いんである。

日常生活の場ならともかく、「ワンマンライブ」という看板を掲げてステージ上でパフォーマンスをするのだから、お客さんのまなざすところはとうぜんmaco maretsただひとりのみ、従ってそこにはなんらかの印象、評価、感想は生まれるはずだが、それがネガティヴなものだったら? 「お金を払って損した」と思われたらどうしよう? とついそんなふうに考えてしまうのだ。

もちろん、それらの印象はどこまでいっても相手に委ねられていておのれでコントロールできるようなものではないし、すべからくポジティヴであれ、と望むことすでに欺瞞だろう。結局はそのときの自分自身にとってベストなパフォーマンスだったかどうか、ただそれだけである。ぐちぐち弱音を吐いても仕方がない!とそれはわかっている。

とはいえ毎夜の悪夢にはほとほとうんざりなのだ。それらをすっかり祓ってしまう方法があるとしたら、それはライブや練習の積み重ねで確かな度胸と技量を身につける、要はひたすら歌うことのほかにないのだろうか。

その結果、いつかたとえば海外の巨大なフェスステージで拍手を浴びるような自分を描けたなら、いや、「海外の巨大なフェスステージ」がわたしにとっての答え、失敗の反対だとしたらあまりにイメージに乏しいところかしらん、だいたいまずは目前のワンマンライブの話だった、とかく何かしらの地点に到達できた「パーフェクト・maco marets」と出会うことができたらがっちりハグでもしてやりたいが、しかしその「到達」がまた幻想であることも疑いようはないからそれも所詮「(仮)」つきで、ああ、つまり悪夢はやまないのか。パーフェクト(仮)なりにやはり、恐れながら歌い続けることになるのではないか。際限のない話である。

や、あるいは。ここまで書いてきて、そもそも「眠りが浅い」というのは、歌い続けることで答えをみつける、とかそんなことでなくって、生活習慣の改善や、自分に合ったいい枕を買うだけで解決する問題かもしれぬとふと思い至ったが……、気づかなかったふりをしておく。ワンマンライブ開催まで、あと3週間。


おしらせ

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9月28日(水)最新アルバム「When you swing the virtual ax」のリリースパーティを開催します。
詳細はこちら→https://www.macomarets.me/blog/news220809

▶︎音楽フェス『岩壁音楽祭2022』出演決定
※第1弾アーティストとして Omega Sapien、Ena Mori、CYK、ermhoi + 小林うてな、maco marets、さらさ 出演決定
詳細はこちら→https://www.gampeki.com/

▶︎最新アルバム『When you swing the virtual ax』配信中
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