#35 ざわめき回転(All-New Sandwiches)
ワンマンライブ当日まで残り2週間。どことなくこころのざわついた日々を過ごしている、その根っこはただ、先週書いたように本番のステージでナイス(だと思われるような)パフォーマンスができるかどうか、という変哲なき不安感ではあるのだけども、そこにちょうど秋の、しゅろしゅろとさみしい気配がおぶさってきたものだから一層の揺らぎが生まれているような気もして、だって何もなくともね、この季節は冷たく乾いた風に飛ばされそうになってしまうのが常なのだ。
いちばん好きな季節でありながら、同時に恐ろしくもあるのは、なぜだかその秋に吹かれた自分のことを信用できないような感じがあるから。後ろからちょいと指先でそそのかされるような、それは春とも夏とも冬とも違う淑やかさのなかにある衝動で、ちょっとした拍子で己の脆さ危うさが露呈するようなこわさ。それはたとえば、次第に凍えていく空気が、枯れゆく植物が示してくれるように、もしかしたら死という死に接近してしまった、数歩にじりよってしまったという直感が裏に敷かれているからだろうか。冬に至ればそこに静止した安らかさをも見出すこともできよう、しかし秋はまだ運動の過程にあるからこそ、あらゆる生命が耐えゆくそのプロセスを遂行している途中であるからこそ、ふと、ぞっと身震いしてしまうのかもしれない。
「読書の秋」などというコピーがある。たしかに、先に書いたようなこころのざわめきは、小説、詩、随筆、あらゆる形式のなかに置かれた言葉のひとつひとつに感応しうる鋭敏さをも引き出してくれるような、そんな気がしないでもない。きっと、日ごろ買っては積み、買っては積みしている自室の本どもをがぶがぶ読み下すチャンスなのだろうが、しかしそこにイベント前の緊張という(まったく別の種類の)波が立つと、せっかく「受信モード」になったマイ・レシーバも狂ってしまう、とどのつまりチューニングがうまくできないというか、書かれている内容を受け取れず文字だけが目から頭を通ってそのまま流れていくというか、そんな読書におちぶれてしまうのが最近だった。
や、本の内容に集中したいのに、よけいな関心ごと、心配ごとが浮かんで気が散ってしまうなんてままあること。誰しも経験があるのではないか。本はいつでも読めるわけではない(ただ文字を追い流すだけならもちろん「読める」けれどね)。注意散漫にならないようこころと身体の安定を保ちながら、かつ「置かれた言葉のひとつひとつに感応しうる鋭敏さ」をも同時に起動しておかねばならないのだから、それなりの条件と調整が必要になる。これが難しい。
さらに、先に小説、詩、随筆といくつか挙げたがそのどれかが読めない、あるいはそのどれかしか読めないというときもある。「今日は小説しか読めない」「今日は小説以外のものを読みたい」と、これは気分だけの問題だろうか。そうかもだ、でもその「気分」は何によって決定されているのか。好きな作家の新作が出た、今すぐ読みたい、と思っても読めない、今じゃない! とか、そんなアンビバレンスをもたらすのはいったい何の力なのんか。
だいたい、この世の事物すべからく他の存在と影響を及ぼし合っているいうのはそうだが、わたしたちホモ・サピエンスもどれほど外的要因によって行動づけられているかしれない。そもそも「秋だからこころがざわめく」とわたしがいうのだって、いったいなぜ? Googleで検索すれば何かしらのページがヒットしそうなものだけど、なんだかそれを答えとするのも癪なので調べはしない、でもきっと「こころがざわめく」ならそのざわめきを引き起こす要因が……おそらくそれはひとつではないのだ……あるはずなのだ。
わたしが部屋で飼っている三匹のヤモリたちも、日ごとさまざまに活動する。じっとこちらを睨んでいるだけの日もあれば、バタバタ手足を動かして壁にへばりついている日もある。それはなにかしらの思いや考えがあってそうしているというよりは、やはり周囲の変化季節や、その日の気温、湿度、その他もろもろの環境条件によって動機づけられた行動のように見える。当たり前のようだが、つきつめれば人間も一緒だろう。
先週末、見事な満月の夜があった。まん丸に輝くそれを頭上にみとめたとき、この天体がいかなる影響をおのれに及ぼしているのか、そればかりが気になった。スピリチュアルな意味ではなく、ある程度の物理法則に則ったなにかしらの効果(サイエンスはからきし不得手ゆえ言い回しが際限なくスリップしてゆくのでした)が降り注いでいるとしたら、たとえ狼男とか、トカゲ男……もといヤモリ男への変身はさすがにないとしても、ざわざわ、いつしか自分のまだ知らないかたちに導かれたこころや身体と出会うこともあるのではないか。そんな予感があったのだった。
それも死への道筋に裏付けられたものなのだろうか。
なんにせよ、落ち着きなく震える指先ではページをめくるのはもちろん、ブログ・エディタ上で文字を編むにもたいへん難儀する! 今日はいつにもまして歪なステッチ・ワークを成してしまったが許してほしい、季節はがたがた回転していて、平静を取り戻すには、ゆるやかな静止までもう少し時間がかかりそうである。
おしらせ
▶︎リリースワンマン公演@渋谷WWW 開催決定(チケット発売中)
9月28日(水)最新アルバム「When you swing the virtual ax」のリリースパーティを開催します。
詳細はこちら→https://www.macomarets.me/blog/news220809
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※第1弾アーティストとして Omega Sapien、Ena Mori、CYK、ermhoi + 小林うてな、maco marets、さらさ 出演決定
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▶︎最新アルバム『When you swing the virtual ax』配信中
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