【B.N.21】よみがえるレディ・マドンナ(Sandwiches / 2020.4.29)

(この記事は2020年4月29日に投稿した内容をそのまま再掲したものです)

この「Sandwiches」をかきはじめて最初のころに、隣人がちょぴりとうるさいっちゅうお話をしました。その後、状況がかわったかといえばまったくそんなことはなく、むしろうるさいスカル・モンキーズは勢力を増大しておっていやのはや、神経質なわたしとしてはきりきりした毎日なのです。

新たな刺客のひとりは上階の住人で、そりゃもう荒っぽく歩くもんやから、どすどすどすどす、足音がひっきりなしに響いてくるし、いきなりギターをかき鳴らしたりするし、むきゃああ! 天井をにらみつけようともこの怨念は伝わらんし、むなしく呪詛をこぼすのみであります。

さらにはもうひとり、わが住居の向かいにある戸建てからも新たな刺客が台頭してきたのやけど、それがまた恐ろしいのです。その誰かは顔も知らぬピアニストで(上階のギタリストといい、わたしといい、えせ音楽家が半径数十メートル圏内におりすぎやわ)、毎日、午前中の決まった時間に映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のテーマをひたすら弾き散らしてきおるのだ!

陽気に誘われ窓を開ければ、いつでもカリブの海賊気分。肌寒い時節はたがいに窓を締め切っておったから気にならなかったのでしょうが、こりゃなかなかにやっかいなシチュエーションです。繰り返される勇ましいフレーズに、あのジョニー・デップ演じる海賊のごとくユニークな身振りでもっておどけてみせる余裕もなく、枕に顔をうずめるか、イヤホンのノイズキャンセル機能でもって必死に身を守るお昼どき……。

そこでふと立ち上がってきたものがありまして、これが「実家の母もよく同じ曲を繰り返し弾いていたなあ」とそんな回想でした。わたしの実家にはピアノが置いてあったのですが、家そのものが山奥に位置しているもんだから、騒音など気にせずにみながじゃんじゃか弾いていた。母には多少の心得があり、わたし自身もピアノを習っていたので、もう記憶もおぼろじゃけんどあれ、バイエルとかね、えっちらおっちら練習しておったのです。といっても当時のわたしは辛抱のない、ハリー・ポッターで言うところのダドリー少年やったもんで、小学5年生くらいのときにふいっとやめてしまいました(無念、今ではほとんど弾けません)。

それで気づけば母の方がピアノの前に多く座っておったのだけど、お向かいさんと一緒でひとつの曲を繰り返し演奏している。それが決まってあのビートルズの「Lady Madonna」でした。レッディ・マドンナ、ら〜ららら〜とオリジナルの歌詞を満足に知らぬわたしでも、母のピアノをずっと聴いていたおかげで、そのメロディだけはほぼ完璧といってもいいくらいに刷り込まれています。

ビートルズといえば、先日『YESTERDAY』という映画を鑑賞しました。売れないシンガーの主人公が、ふとしたきっかけで「ビートルズが存在しない(ついでにコカ・コーラやハリー・ポッターもない!)」パラレルワールドに迷い込み、物は試しと「Let It Be」をはじめとする往年の名曲を自分がつくったものと騙って発表してしまう。その結果、出す曲出す曲スマッシュヒット! 一躍大スターになって……というストーリー。そんな頓狂な! とも思われましょうが、非常にコミカルでかわいらしい、現代のおとぎばなしといったむきの映画でした。

この『YESTERDAY』のなかで、主人公がピアノの弾き語りで「Let It Be」披露するシーンがあります。この姿と、「Lady Madonna」を弾く母とが一瞬重なったような気もして……なぜ母がやたらにその「Lady Madonna」ばかり弾いていたのか気になるところですが、聞き出そうとすれば時間がかかるとみてまちがいなし、今日は謎のままで留めておきます。

けっきょくもっかの相手はカリブの海賊。せめてそれがビートルズの曲であったなら、コーヒーをかたむける小洒落たBGMになってくれたやろうか、いや、どんな名曲であっても、穏やかなお昼の闖入者とあっては撃退せざるをえんやろか。だんだんと「レディ・マドンナ」もカリブの海賊に取り付いた幽霊のごときイメージ(ドレスを着た貴婦人のガイコツや)と結びついてひとりあるきで、やっぱりね、枕に顔を埋めたくなるでしょうねえ。


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