#05 タイトルを追って


制作中のアルバム、進捗は40%ほど。さいきんは自宅での制作作業とスタジオに入ってのライブ練習とをひたすら往復、たまにささやかな文章仕事などこなす毎日である。〆切に追われていると本が読めなくなる(ちっとも集中できないのだ、脳みそが「文字追えませんモード」になってしまう)たちだもんで、合間の息抜きにはもっぱら映像……映画か、 K-POPアイドルのビデオなんかを観ている。直近だと『フレンチ・ディスパッチ』『コーダ あいのうた』、それから『スパイダーマン / ノー・ウェイ・ホーム』を映画館で鑑賞した。どれも面白かった。

『スパイダーマン』を含むMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース……マーベル・コミックス原作のヒーロー映画シリーズ)の膨大な作品ロゴ一覧をみていると、小学生のころ、架空のシリーズ・タイトルを考える遊びをしていたことを思い出す。細かなストーリーなどそっちのけで、ひたすら作品の題名だけを量産し続ける遊び。

たしかオバケになった少年が主人公の「BAKE -バケ-」というシリーズだった。『BAKE II』『BAKE III 』『BAKE vs. KUROBAKE』『BAKE / REVOLUTION』とか、百作品分はタイトルロゴを作ったと思う。当時から「スター・ウォーズ」やら「ゴジラ」やらのシリーズものが好きだったから、その影響だろう(ゴジラなんかひたすら「ゴジラ対〇〇」「ゴジラ vs 〇〇」をやっているものね)。ノートの余白をびっしり埋め尽くすように、夢中で書いた覚えがある。

この遊びのなにがいいかって、あくまで「タイトルだけ」考えつけばいいというところ。そりゃ百作も小説なり脚本なり書きしたためられたら最高なんだけども、それにはとびきりの才覚と、なにより時間が必要にちがいない…… 「タイトルだけ」スタイルならものの数十秒で「作品」が完成するし、なんともお手軽に長寿シリーズを執筆する大作家、あるいは敏腕プロデューサーの気分に浸ることができるのだ。ストーリーは都度、タイトルを見つめながら頭のなかで勝手に再生してしまえばいい。無責任なようだが、これも物語づくりの享楽を味わうひとつの方法と言えるかもしれない。

以前、noteの記事かどこかで「maco maretsのアルバムもひとつの物語シリーズのように捉えている」と書いた。名付けるなら、デビュー作『Orang.Pendek』から『KINŌ』『Circles』の三作は唯一のプロデューサー・東里起氏とつくりあげた「オリジナル・シリーズ」。つづく四作目『Waterslide III』以降はコロナ禍での自身のあり様をテーマとし、複数のアーティストとのコラボレーションによる多彩なサウンド展開に舵を切った「ウォータースライド・シリーズ」といった感じだろうか。

さながら「スター・ウォーズ」のように三部作でワンセットのトリロジーだとすると、制作中の六作目は「ウォータースライド・シリーズ」の完結編にあたる。じっさい、ここ数年間の集大成的な作品になる予定である。

そこには、かつてオバケの「BAKE」シリーズを落書きの上で展開していたころと変わらぬ気分があるようにも思える。違うのは多少なりともタイトル下に充填された「内容」が伴っているということ、またそれを実際に聴き読む他者がいるということであって、とうぜん一から十まで「勝手に頭の中で想像してください」というわけにはいかない……しかしどうだろう、サウンドのほかは「想像してください」でいいのではないか? とそんな気もする。

どんな物語も、最後は作り手の意志と離れたところで「再生」されるのだ。いかなるタイトルをつけようと(そしてそこに「内容」があろうとなかろうと)きっとそれは変わらない。


おしらせ

・街なか音楽祭『結いのおと』出演決定

2022年5月7日(土)&8日(日)、茨城県結城市にて開催される都市型音楽フェス『結いのおと』に出演します。

(第1弾アーティスト)
サニーデイ・サービス/TENDRE /bird /ぷにぷに電機 /maco marets/VivaOla/Nenashi /ぜったくん /macico /栞寧 ほか

詳細は下記サイトをご覧ください。
yuinote.jp/posts/32320946

・連続配信シングル第3弾『Surf (feat. TOSHIKI HAYASHI(%C))』好評配信中

https://www.macomarets.me/single