#10 続・春日誌
タイトル通り今週も最新曲『Spring Journal』についてお話ししたい、のやけど、しれっとカムバックしたジェネラル・ウィンター凄まじくここ数日とにかく寒々しい。ざんざか雪が舞い、あたたかい春の気配などどこへやらである。近所に植わっている桜の木など、そそっかしくも花開いているのを見たけれども「急ぎすぎたなあ、寒かろうなあ」余計な心配をせずにはいられぬ。電気不足をのたまうニュースにエアコンを使わず過ごしていたものの、体は冷えるしそれに、我が家のヤモリたちがずいぶんと元気をなくしたそぶりだもんで益々よろしくない。若き春よ、一刻も早い帰還をと願うばかりだ。
ともあれ当の拙作『Spring Journal』かてぬくぬくぽかぽか、麗かなる春の陽気をイメージした曲かと言うと実は少し違うのだった。むしろ、冷たさをまだ底に残したような、喜び溢れる陽気の「手前」のムード(プレスリリースには「花冷えの春」という文句を書きつけたがまさしくそれ)こそを歌いたい……そんなひねくれた気持ちがあったように思う。
弛緩と緊張とのあわいを揺れ動く、喜び(=春)への期待と絶望がないまぜになったような? 無理やりこじつけるならば、それはまさに今日このごろの気候のごときありようだと言えるかもしれない。
さすがにみぞれの降り注ぐさまは描いていなかったけれども、そうした「手前」の、うつろう季節の温度感をビジュアルであらわしてくれたのが『Spring Journal』のミュージックビデオであって、ええ、今日の本題はその紹介にあるのだった。
ミュージックビデオ本編はこちら:https://youtu.be/4dfUU5XjV7g
監督は、ちょうど昨晩最新回が公開されたWebメディア・Qeticでの連載企画『葉書のえらびかた』でもコンビを組んでいる写真家/映像ディレクターの河澄大吉(かわずみだいきち)くん。
maco maretsの映像シリーズを支える中心的人物であり、彼の手による映像は今回の『Spring Journal』で通算七本目となる(アシスタントとして参加してくれたものを含めるとさらに増える)。昨年末リリースの『Yesterday』や、『Samuine』『Mizu no katachi』なども大吉くんワークスだ。くわしくはこちらの再生リスト(https://www.youtube.com/playlist?list=PLZB32PXiFnkZGgCuE8NIZpRfniYnNvod3)をご覧いただきたい。
もともと写真家として静止画を扱っていたからか、彼の撮る映像はどこかスタティックで、動画のダイナミズム、熱量みたいなものから半歩引いたような落ち着きをまとっている、そんな印象がある。そしてその視線のひんやりとした手触りこそが、maco maretsとしてわたしが態度するところ(否、態度したいとのぞむところ)と呼応しているようでもあり、彼と共に多くのMVを完成させることができた理由もそのあたりにある気がしている。さっくり言うなれば、基礎体温の近しい相手なのだ。
今回の『Spring Journal』は主演にモデルとして活躍する永遠(とわ)さんを迎え、ときに歌詞の内容をなぞり、ときには逸脱を演じつつ(亡霊的に登場するmaco maretsとかね)、しかし全体は先述した「喜びへの期待と絶望」というともすれば相反するようにも思われる、が、実際のとこけっして対立する項ではなくむしろそれは常に入り混じった状態にあるものとして捉えうるそのムード、をおおよそ日常的な動作(読書、植物への水やりなどなど)のなかに映し出している。そこには決して大きなドラマが存在するわけではないけれど、だからこそ、視聴者それぞれが思い思いの物語を描く余地が十二分に残されているのではないか。
個人的にはMV後半、ガラスペンを手に、しかし言葉は持たずに書きあぐね、視線を彷徨わす永遠さんの姿が印象に残った。わたしにとって春の喜びとは、いまだ欠いたままの言葉、おのれと世界とをあらわす言葉の到来と結びつく。春とは、言葉が満ちるときなのだ。しかし、実際はもちろんその「手前」で甘んじているのであって、欠落が埋まることはおそらくない。ただ、待ち望んでいるのである。そのさまが、ガラスペンのシーンにはさらりとあらわされているように感じた。
永遠さん、彼女もまた冷たさとやわらかさを等しく内包した眼差しの持ち主であり、これ以上なく素晴らしいキャスティングであった。また、『Yesterday』に続いて参加してくれた照明のたつきさん、ヘアメイクのあゆみさん、スタイリストのえりさん、御三方の力量なくしては美しいその画面も成立しえなかった。参加メンバー皆に、この場でめいっぱいの感謝と尊敬を送りたい。
本来はシーンごとの演出に触れつつより詳しくご紹介したかったのだけれど、思ったよりも文字数と時間を食ってしまったし、なにより本作の監督はわたしではない、あまり外野から無粋な注釈を付けるものでもないと思い直した次第……。またどこか別のタイミングで、叶うならば大吉くん本人の口からいろいろと話を聞く場をつくれるといいなと考えている。テキストなのか、動画か、音声か、わからないけれども、彼だけではなく今回の新アルバムに関わるさまざまなゲストをお迎えできたら楽しそうだ。思いつきで言っているので今のところ一切の予定はないが、企みだけは胸に抱いている。
とまれ三月ももうすぐ終わってしまう。春は来ずともせめて、あたたかい気候であればといいなと思う。
おしらせ
・連続配信シングル第4弾『Spring Journal (feat. Taisuke Miyata)』好評配信中
配信先はこちら→https://linkco.re/yZC4npcr
・『SYNCHRONICITY'22』出演決定
2022年4月2日(土)、東京・渋谷で開催されるサーキットイベント『SYNCHRONICITY'22』に出演します。
詳細は下記サイトをご覧ください。
https://synchronicity.tv/festival
・Mime One-Man Live 2022 ゲスト出演決定
2022年4月29日(金・祝)、東京・渋谷WWWにて開催されるMimeのワンマンライブにゲストボーカルとして出演いたします。
詳細は下記サイトをご覧ください。
https://eplus.jp/sf/detail/3509190001?P6=001&P1=0402&P59=1
・街なか音楽祭『結いのおと』出演決定
2022年5月7日(土)、茨城県結城市にて開催される都市型音楽フェス『結いのおと』に出演します。
(現在発表済みの出演アーティスト)
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC/スカート/yonawo/サニーデイ・サービス/TENDRE /ぷにぷに電機/思い出野郎Aチーム/GOMA meets U-zhaan/VivaOla /YonYon /C.O.S.A./Nenashi/bird/空音/ぜったくん/maco marets/macico /栞寧 ...and more!!
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yuinote.jp/posts/32320946