#09 春日誌

不意打ちに春だもんで、喜びにおぶさるようにして言い知れぬ焦燥の念がわいてきた。作業はこまごま溜まっているくせ、ざわざわ/そわそわ、机にじっとしていることができない。ゆくあても定めず散歩に出かけたり、立ち寄った公園でホットドッグをかじってみたり……なにを達成するでもなく、ただただ活動している、活動せずにはいられないといった感じである。我が家の三匹のヤモリたちもにわかに元気付いたようすで、ケージ内を活発に徘徊している。きっと彼らなりに季節の変わり目を自覚しているのだろう。「春やねえ?」懲りずに話しかけてしまう。

そんな三月なかばである。期せずして(もちろん季節にあわせる目論みはあったが、ここまでジャスト・タイミングで春模様にスイッチするとは思わなんだ)「春」をタイトルにくわえたmaco maretsの新曲『Spring Journal』の配信がはじまった(配信先はこちら→https://linkco.re/yZC4npcr)。

昨年末の『Nagi』から連なる連続配信シングル・シリーズの第四弾。毎度わずかでも趣向の異なる楽曲をお届けする、そんな目標を掲げているけれど、今回はこれまでになく「生演奏のぬくもり」を含んだ点で特異な楽曲だと思う。

トラックをプロデュースしてくれたTaisuke Miyata(以下「ミヤタくん」)はメロウ・イエロー・バナナムーン、South Penguinなど複数のバンドで活動するギタリスト/プロデューサー。二〇一七年の「Summerluck」を皮切りに「Deadbody」「D.O.L.O.R.」「Kamakura」ほか数多くのmaco marets楽曲にギターで参加してくれている。近作『Waterslide III』『WSIV: Lost in November』では「Sweatshirt Lovers」「Oldman」などのトラックプロデュースに加え、アルバムを構成するイントロダクション、インタールードの制作も担っており、maco marets を語る上では欠かせない存在のひとりだ(ついでに、わたしの数少ない大学時代からの友人でもある。今まで共演したミュージシャンのなかでも、彼以上に気の許せる相手はいない)。

ミヤタくんのプロダクションは、バンドマンとして、ギタリストとしての立場からヒップホップ/ラップというジャンルを再解釈するという態度に基づいている。それゆえ、わたしmaco maretsにとっては毎度の制作が新鮮な、硬直したおのれの「ヒップホップ観」(など、言ってしまえば下らないなにか)を解体するような作業でもある。

『Spring Journal』においてはアコースティック・ギターのループがメインに据えられていて、実際ここまでオーガニックな雰囲気をまとったサウンドにラップを乗せたことはなかったし、ちと可愛らしすぎ、あざとすぎやしないかという(これまた下らない?)懸念はあった。

それに抵抗するかのように、maco maretsのラップは少々ガサツで言葉を放り投げるようなスタイルをとっていて、もっとやわらかく繊細なアプローチを試してもよかったかもしれないと思う。しかし、最終的には後半のサクソフォン・セクションや、ミヤタくんの口利きで参加してくださったベーシスト・岩井百合香さんの骨太な演奏が加わり、さらにはコーラスとしてすっかりおなじみの浮(ぶい)こと米山ミサが参加してくれたことによって、フォーキーな生演奏のあたたかみと、ラップミュージックとしてのざらついた手触り(a.k.a. なめらかで直截的な表現を忌避するどこかナルシスティックな態度)がちょうどよくブレンドした作品に仕上がったように感じている。その点、散逸した諸要素をまとめ上げてくださったエンジニア・向啓介さんの手腕によるところも大きい。

とかく、毎度のことながらわたしひとりの力では決して完成できなかった作品である。素敵なアートワークを提供してくれたYunosukeさんを含め、本シングルに協力いただいた皆さんにこの場を借りて感謝したい。当ブログの読者、奇特なmaco maretsリスナーの皆さんにも『Spring Journal』が快く受け入れられることを願っている……。

と、ここまで読んで「ミュージックビデオについては何もなしか?」と思われた方がいるかもしれない。実はこの文章は三月十六日、楽曲リリース日の昼っぱらにしたためたものであり、その時点ではまだビデオが公開されていないため一旦の言及をさけたかたちだ。愛すべき『Spring Journal』のビデオについてはまた次週、お話ししたい。


おしらせ

・連続配信シングル第4弾『Spring Journal (feat. Taisuke Miyata)』本日リリース

配信先はこちら→https://linkco.re/yZC4npcr

・『SYNCHRONICITY'22』出演決定

2022年4月2日(土)、東京・渋谷で開催されるサーキットイベント『SYNCHRONICITY'22』に出演します。

詳細は下記サイトをご覧ください。
https://synchronicity.tv/festival

・街なか音楽祭『結いのおと』出演決定

2022年5月7日(土)、茨城県結城市にて開催される都市型音楽フェス『結いのおと』に出演します。

(現在発表済みの出演アーティスト)
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC/スカート/yonawo/サニーデイ・サービス/TENDRE /ぷにぷに電機/思い出野郎Aチーム/GOMA meets U-zhaan/VivaOla /YonYon /C.O.S.A./Nenashi/bird/空音/ぜったくん/maco marets/macico /栞寧 ...and more!!

詳細は下記サイトをご覧ください。
yuinote.jp/posts/32320946