#36 スクリブル928 / ワンマン公演を終えて(All-New Sandwiches)

日々のあわただしさにかまけてちゃっかりお休みしていた「All-New Sandwiches」、2週間のブランクを経てようやくの更新です。ついでにストップしていた他の連載「音読部」「B.N.」も今週から再開します。ふだんどのくらいの方が追って下すっているのかは皆目見当もつかないけれど(アナリティクス画面は見てみないふりをしているから)、張り切った心もちで更新するのでよければ、覗いてみてくださいね。

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して先の9月はなぜこんなにもバタバタしていたのかと言えば……と、そんなとぼけた顔をする必要もなかろうか、そう、タイトルにある通りで2022年9月28日、maco maretsとして初となるワンマンライブを開催したからなのだった。

気づけば今日で1週間が経とうとしている。ほんとう終わってしまえばあっけないものだけれど、これは大袈裟でなく、生涯忘れることのないであろう一夜になった。お越しいただいた皆さん、また開催にあたって協力してくれたゲスト・ミュージシャン諸氏、映像演出、撮影、物販の各チーム、そして会場となった渋谷WWWのスタッフの方々にも心からの謝意を表したい。

大学進学と共に上京し、ラッパーとしてのライブ活動をスタートしてから10年目。maco marets名義でのデビューからは7年目となる今年、ようやっと迎えたワンマンライブのステージは、まさにそれまでの月日、わずかなれ積み重ねてきた活動のいっさいが、周囲の人々の支えによって存続していたことを強く(とても強く、強く)思い出させてくれるものだった。それは「ワンマン」と言いつつ決してひとりで作ったステージではない。お客さんを含め、あの場にいた誰一人欠けても今回のライブは成り立たなかった。

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もともと、ワンマンライブ開催の機会は今から2年半ほど前の2020年3月にも用意されていたんである……それがちょうど最初の「緊急事態宣言」にぶつかるかたちで延期となり、なんとか開催のタイミングを図ろうとしたものの、終わりの見えない状況のなかで残念ながら中止という結果になった(当時はnavy.inc ならびにcreativemanの皆さんに多大な尽力をいただいた。この場を借りて感謝申し上げます)。

しかしここで明かせば、その当時は落胆を覚えたのと同時に、どこかホッとしたような心持ちの自分もいたことを否定できない。

ワンマンライブというからには、お客さんは他でもなくmaco marets=このわたし! の歌、パフォーマンスこそを目当てにチケットを買い、遊びに来てくれる。しかし、そんな人たちを満足させることが果たして、自分にできるだろうか。1時間を超えるステージを、成立させることができるだろうか? なにぶん初めてのことであるし、情けないことにすっかり自信を失っていたのだ。だから安堵した……。や、そうした自信を持ち得ないがゆえにやる必要があったのだけど、そうやって振り返ることができるのも、無事ワンマン開催の実績を解いた今だからこそである。

じっさいのとこ、それから2年半を経て持ち上がった今回の企画にあたっても同じく言い知れぬプレッシャーというか、ふいの不安感に襲われる夜が続き、それはたとえば以前のブログで書いた通り間抜けな悪夢のかたちであらわれた。

いちいち喧伝することでもないが、maco maretsはレーベルや事務所などに所属しておらず、スタッフもマネージャー、エージェントもいない。活動に関連するあらゆる作業を基本的に自分ひとりで行っているゆえ、今回のような企画の場合、ステージでのパフォーマンスとは別に、ライブ全体の運営に対する責任も少なからず負うことになる。不安感の正体はけっしてわたしの歪曲した自意識だけでなくって、現実的な収支その他の問題も含んでいた。

そういう意味では、先ほど「ひとりで作ったステージではない。お客さんを含め、あの場にいた誰一人欠けても今回のライブは成り立たなかった」と書いたのはまさしく実質的に、周囲のサポートなくしてはイベントの運営自体が不可能だったからでもある。

今回の企画の立案者でもある渋谷WWWの田中さんは、開催準備にあたりこちらのあらゆる要求に応えてくださった。SNS投稿やニュースリリースほか、積極的なPRも同氏の尽力によるもの。最後までとにかく頼りっぱなしだった。

また会場の映像演出については大学時代からの友人でもある兵藤くんが一切のプランニングを担当してくれ、また強力な助っ人としてユウノスケくん、トモヤさんの両名が駆けつけてくれた。

くわえて当日の様子を撮影するため、これもmaco maretsとしてお世話になりっぱなしの友人・河澄大吉くんとそのチーム、総勢5名のメンバーが一日中カメラを回してくれることになった。物販スタッフには、なんと実の弟と同居人が手伝いを申し出てくれた(音楽とは縁遠いはずの弟が、会場でミュージシャンたちと会話をしているのは実にふしぎな光景だった)。

それからステージを共にしてくれた友人のミュージシャン諸氏にも、ほんとう、頭が上がらない。ゲストボーカルとして一緒に歌ってくれた藤原さくらさん、18scottさん、浮さん。バンドセットでのライブを作り上げてくれた石垣陽菜さん、カール・グッチさん、ワタナベキョウタさん、そして宮田泰輔くん(バンマスとしての役割のほか、ソロセット用のライブ音源の制作、また運営に対する不安や悩み事のはけ口……もとい相談役として、つきっきりでサポートしてくれた。ありがとう)。彼らの存在が、なにより心強かった。これまではひとりでステージに立つのも平気だったけれど、こうしてゲストボーカルやバンドを交えたライブを経験してしまうとソロライブなんてできるもんじゃない。さみしいな。半分本気でそう思った。

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ライブ中のことは、正直よく覚えていない。高揚と、同時に緊張とが痙攣のように訪れ、ひっきりなしに言葉と、身体とがくっついたり、離れたり、重なりあったり、ままならぬバラバラな感覚のうちで、歌い続けた。0.5秒ごとに意識は明滅し、ところどころ、歌詞を飛ばしてしまうこともあった。

照明の具合もあってお客さんの顔をしっかり見ることはできなかった。みんな、どんな顔をしているだろうか? 歌いながら何度か不安に襲われた。それでも、曲ごとに、控えめながら沸き起こる拍手のなかに、柔らかな喜びの音を聞き取ることができた気がした。

喜び! そうだ、最後のお辞儀をしステージを後にしたとき、そこにはただ、喜びだけがあった。そして初めて、自分がmaco maretsとして活動をしてきた甲斐も多少なりあったのではないかと思えた。どれほどのパフォーマンスを披露できたかわからない、対外的に何らかの達成を得たとかそういうわけでもないがそれでも、なにより己の身体の奥底で湧き上がる実感として「楽しかった」、それだけでうち震えるような感慨があった。

それは自信とは少し異なるものかもしれない、これからもライブ出演のたび悪夢を見、怯えるような気持ちでステージにあがるだろうし、たびたび失敗を演ずるに違いない。けれども、2022年9月28日「maco marets 6th Album "When you swing the virtual ax" Release Party」(長……)あの夜のことを思い出せばなんちゃない。お守りのように結晶したそれが、何にもかえがたい祝福の感と、それを与えてくれた周囲の人々への感謝の念とを思い出させてくれるはずなのだ。

楽曲を聴き、ライブに足を運んでくれる誰か、あなたがいることに、今はただありがとうと言いたい。

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今後、maco maretsはライブ活動を本格的に再開、同時に新アルバムの制作に着手するほか、こうした書き物や朗読の連載を含め小規模ながら自分にやれる限りの活動を続けていく(たぶん)。

じっさい、maco maretsのライブや作品から何を受け取ってもらえるのか、そもそも受け取るような「何か」があるのか? それはわからない。一切はこちらの預かり知らぬところにある。

ひとつだけわがままを言うならば……これもSNSで用いた表現だけども……「maco marets」と、その場にふと生まれた関わり合いが、誰かにとって喜びめいたかたちで発火することがあるならばそれこそ、かえがたい僥倖である。それだけを望んでいる。


おしらせ

▶︎最新アルバム『When you swing the virtual ax』配信中
詳細はこちら→https://linkco.re/psUESTav

▶︎連続配信シングル第6弾『Moondancer』配信中
配信はこちら→https://linkco.re/Y03ArgVb