【B.N.35】まぼろし息づく薄暗がりに(ft.『under the bed』)(Sandwiches / 2020.5.13)
(この記事は2020年5月13日に投稿した内容をそのまま再掲したものです)
すじから肩にかけて、妙なこわばりがほどけぬままに目覚めた今朝です。なんでやろか、肩を回そうとすれば、がちんがちんと鈍い痛みが走ったりするもんでやあかなわん! 外出できるようになったら一度、マッサージでもいかなイカンようです。
さあ「楽曲紹介」シリーズ、今日は2016年リリースのデビューアルバム「Orang.Pendek」からM7『under the bed』を聴いていただきましょう。
アルバム中においては、間奏といいますか、インターミッションといいますか、とかくそうした位置付けの短い楽曲になっています。必然的に言葉数も少ないのやけど、個人的にすきなフレーズは「おしゃまなダーティトゥウェンティ」かしらん。当時二十歳だったおのれを、おしゃま(これはすこし「ませた」女の子のことを指し示す形容詞ですが、それをも踏まえた上で使ったのでありますよ)かつダーティやあ、とか宣うもんだから、自分で書いた歌詞ながら「なあに言っとるの」とおかしくなります。
それから曲は「気づいた メッセージのありか」というフレーズで終わりますね、これがタイトルの「under the bed」を示唆しておるようです。ぜんたいベッドの下というのはそらおそろしいmoodを孕んだ空間でしょうて、その点皆さんも異論はありますまい。その薄暗いすき間に、なにか得体の知れないmonstrousなものが潜んでいるような……子供の夢想? いえいえ今でも、覗き込むのをためらってしまう、独特の瘴気を感じやしませんか。
もちろんたんじゅんに、げじげじした虫なんかがいたらヤだなあ、とかそんな類のおそろしさもございます。つい昨日、部屋の模様替えをした話を書いた(運・動・音・痴【Sandwiches # 34】)けれど、ベッドを動かすときには必然的にその下の空間をあらためなければならず、そりゃよ、やっぱりなかなか怖い作業やった。実際にはまるめた冬用のカーペットと、それからスニーカーの空き箱、ライヴ用の機材なんかが押し込んであるだけなのに、それでもびくびくしちゃうのです。あの、すこし小汚いお話をすれば、ほこりとか、ゴミとか、溜まっていたりするしね。そうした生理的嫌悪感もあいまっての、得体の知れなさ・触れたくなさなのかもしれません。
しかしてベッドの下に怪物がいる、なんてモチーフはよく見かけるような気がします。パッと浮かぶのは映画版『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第3作)』のワンシーン、「魔法生物飼育学」で使う生きた教科書『怪物的な怪物の本(このタイトルも最高ね)』が暴れるシーンだったり、それからピクサー映画『モンスターズ・インク』の冒頭も、子供部屋のベッドの下からモンスターが這い出す場面がありました。どちらもギャグっぽいシーンなので、まことの恐怖とはすこし異なる気がするけれどもね。
あとは有名な作品で言えばカフカの『変身』なんかもちょっぴり「ベッドの下」の要素があります。正確には「ソファーの下」なのですが、主人公のグレゴール・ザムザが怪物(文中では「ウンゲツィーファー」……生贄にできないほど汚れた動物或いは虫)に姿を変えてしまい、家族から身を隠すために部屋のソファーの下でじっとしている、そんな場面があります。
もし事情を知らない人が見たら、グレゴールが妹に襲いかかって嚙みつこうとしたのかと思ったかもしれない。グレゴールはすぐにソファーの下に身を隠したが、昼になるまで妹は姿を見せなかったし、やっと顔を見せた時も変にそわそわしていた。このことがあったせいで、妹にとってグレゴールの姿がまだ見るに耐えないものであり、これからもそれは変わらないだろうということや、ソファーからグレゴールの身体の一部がはみ出しただけでも妹は本当はすぐに逃げ出したいのに我慢してその場に留まっているのだということが身に染みてよく分かった。
(多和田葉子編『ポケットマスターピース01 カフカ』/ 2015年 / 集英社 / p.43より)
この場合はグレゴール自身が「その下に潜むなにか」となっているわけで、悲劇的でありながら、同時に妹……この「なにか」が自分の兄である、と同定するだけのてがかりも持たぬまま、それと相対している気丈な人物……の視点からみたグレゴールの、身の毛もよだつその身姿が薄暗がりから浮かび上がってくるような、そんな感覚がぞわりと起きる。もちろん『変身』は決して怪奇なモンスター小説ではないのでそのグロテスクさが殊更に強調されるようなことはありませんが、やっぱり薄気味悪さを感じます。
別に明るいミニチュア・桃源郷がそこにあってもいいのにな、と思うわけですが、なぜだかいつだって「ベッドの下」から想起されるイメージはダークなもんで、楽曲『under the bed』でのわたしが「気づいた」その「メッセージ」とは果たしてハッピーなもんやったのだろうか、それとも硫黄の香り漂う悪魔的世界への誘いやったのだろうか……。はたしてはたして。
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