【B.N.37】ウェア・イズ・ぴったしかんかん(ft.『XL』)(Sandwiches / 2020.5.15)
(この記事は2020年5月15日に投稿した内容をそのまま再掲したものです)
多くの県で「宣言」が解除されるとのことで、SNSなんかをのぞくとあれね、にわかに解放的moodのきざし。きたるアメージング・シーズンまであと少しやろか、しかしてまだ先は長かろうと、そんな予感も同時にあって、なかなかうきうき気分にはなれないわたしであります。東京・新宿の空は今日もよく晴れていますが、そちらは?
じりじり進む隔日の「楽曲紹介」シリーズ、今日は2016年リリースのデビューアルバム「Orang.Pendek」よりM8『XL』を取り上げます。
この楽曲はタイトルの『XL』、そしてhookの「ぼくらの時代 ぼくだけの生活 just sizeのシャツまだ見つからず」なんて直截なフレーズの示す通り、おのれに合ったサイズの服……よりふくらませればしっくりくる生活、がなかなか見つからん! どうすりゃええんや! とそんな焦燥感が念頭にありまして、これは先に紹介した同アルバムの『S.N.S.』(さわらのさる、浮世にはばかる(ft.『S.N.S.』)【Sandwiches #25 】)なんかと同じように、ひとりこの大東京砂漠で彷徨ううちに醸成された種のテーマなのでした。
全体的に「若い・青い」印象の歌詞だなあ、と約4~5年経ったいまわたしは思うわけですが、実際のところこの『XL』に書かれた諸感覚は変わらずに持っているし、無期限延長中のモラトリアム、そのただ中においてピーター・パンを演じているばかりでひとつも成長できていないのでは、とそんな自覚がヒヤリと湧いた。このnoteで幾度も書いてきたような、ずっと抱き続けているこの居心地の悪さの正体……それは、本当はたとえば「東京」を槍玉にあげてうやむやにできるような類のものではないのかもしれません。
大雑把な例えをすれば、ハワイの高級リゾートで暮らしていたとしても、(あるいはより卑近に)生まれ育った地元・福岡に留まっていたとしても、同じような感覚を持っていたのではないか。ようは「場所」の肌馴染み、その快・不快は言い訳にすぎず、結局おのれのアティチュード、心持ちこそが問題なのではないやろか? 考えれば考えるほど、「やっぱり東京って好きになれなくて」、そんな物言いを繰り返していた自分を恥じたくもなります。いつぞや、お世話になっている年長の方から「それは東京に真剣に向き合ってないからではないか」などと窘められたことがあったけれど、しっかり怠惰なわたしの内を見抜かれていたのでしょう。
この #stayhome シーズンにあって、余計にその「場所」や、生活のあり方を意識するようになった向きも多くおられるのではと思います。いまはたしかに「ぼくらの時代」、だけれど自分が本当にいたい場所、したい生活ってなんやろか。「just sizeのシャツ」ってどこにあるんやろうか。
余談っぽくなりますがわたしはファッションに疎く、自分に似合う洋服、を選ぶのが大の苦手です。というより何が「似合う」のか、どんなデザイン、どんなサイズがしっくりくるのか、四半世紀生きてもピンときておらん。とくに学生のころは、ぶかぶかのホッケーシャツにゆるゆるデニム、ビビット・オレンジのキャップを合わせたコーデを披露し「そりゃあないわ」と周囲から大ブーイングを喰ったこともあります。
音楽というのはファッションと不可分なものですから、本来、身に着ける洋服っちゅうのはRapperとしてのおのがスタンスを表明する鮮やかな手段たりえるはずで、そこをもやもやっとごまかしている某maco maretsが「地味」「いまいち振るわぬ」との評価を受けるのも納得できるといいますか、や、これは適当な自虐をしたいわけではなくてね、その曖昧さを自ら甘受しているばかりでは当然とうぜんトウゼン!「just sizeのシャツ」を見つけられるはずもないのよな、とそういうことです。
そこで必要なことといえば『XL』においての「わたし」が「この街の片隅で割くmy sense 見たことのない景色を求め……」と歌っておるように探求、探求! であって、ここでいうsenseはもう五感のぜんぶ、感応しうるすべてのものともう一度向き合うことが求められている。
部屋の中で本に親しみ、映画に触れること、それもおのれにとってぜったいに欠かせぬ営為やけども、それらによって得たイメージをどう咀嚼し、おのが精神と生活の中に取り込んでゆくのか(公園の話で近いことを書いた記憶があります「公園にて、青ジャンパー(あるいは)ぐるぐるおばあちゃん【Sandwiches #32 】」)。
きっとそれは洋服を着るのと同じように、実際に身につけて、鏡に映すようにして街を歩いてみるほかなくって、やあ、今日はいつにもまして青臭く、とりとめのない〆となってお恥ずかしいけれどもね、「just sizeの」すてきな洋服を着こなせたなら、自分のいる「場所」における居心地の悪さだって、たちまち解消できるような気がするのです。うん……。
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