#02 わかたれたひとり
先週『Surf (feat. TOSHIKI HAYASHI(%C))』という新曲をリリースした。昨年の暮れからスタートした連続配信シリーズも気づけばはや第3弾、毎回すこしでも違う顔を、あたらしいmaco maretsを見せられたらと曲を作っているけれど、既存曲の雰囲気を多少なりとも汲んでいた第1弾『Nagi』や第2弾『Yesterday』と比べても『Surf』はどこか違った肌触りで、リリース直前まで「これ、やっちまったか? 大丈夫か?」とそわそわ、妙に落ち着かぬ気持ちでいたことを告白したい。
もちろん、決して断じて悪い曲だと思っていたわけではない(それはトラックをプロデュースしてくれた%Cさんをはじめ、作品に関わってくれた全員に失礼なことだ)が、反応が予想できないリリースというのは間々あるものだ。
結果的にはおおむね好意的に受け入れられたようで、わたしの考える「自分らしさ」など周りはさほど気に留めていないことを実感している。問われているのは曲そのもののクオリティであって、微々たる誤差に収まるような、(そもそもあやふやな)maco maretsの一貫性を疑う人は少ないのだろう。
むしろ、過剰ともといえるほどその「一貫性」のなかに固執し楽曲を作ってきたmaco maretsである。己の敷いたレールからすすんではみ出し外れていくような心意気がなければ、クリシェと化した「自分らしさ」を再生産し続けるだけのゾンビ・ラッパーに転ずる羽目にも陥りかねない。というよりすでに陥っているかもしれない? 「フレッシュでなければ」。呪いのようにもきこえる、そのささやきは常にこだましている。
「フレッシュ」かどうかは読者の胸に聞くとして、『Surf』という楽曲におけるささやかな試みのひとつを紹介しよう。この曲で歌っているのはわたしひとりだ(ちなみにさいきんのmaco marets楽曲においては「feat.」表記を多用しているが、一組のみクレジットされている場合はほぼすべて「トラックプロデューサー」を指しており歌唱に参加しているわけではない)が、ここでは一貫した話者としての「わたし」をバラバラに解体した、あえて言うなれば分裂症的な状態を、客演ボーカルを交えずひとり芝居的につくりだすということを目指していた。
具体的にはサビ、ラップパート、ややメロディアスな歌パート、それからポエトリーリーディングチックな間奏パート、と、歌唱箇所のそれぞれで歌詞の書き方や歌い方、最終的なMIX処理(音の質感)に至るまで微妙な差異を加えている。とくに1分45秒からの歌パートなんかがわかりやすいかもしれない、ここではオートチューン・エフェクターによってピッチ&フォルマントをいじったボーカルラインがあり、そこに素の声でのラップがかぶさってくる、一人二役での掛け合い/ユニゾンを作り出そうとした結果そうなっている……そのほか詳しく書き出すのも助長なので省略するけれど、気になった御仁は楽曲を聴いて確認してほしい。
もちろんこうした工夫は珍しいものではないし、もっと上手くやりようもあっただろうことはみとめる。あくまで個人的に、自分をしばる「一貫性」のくびきから逃れる、バラバラの自己を認めるひとつの実践として『Surf』のボーカル制作を捉えていたということだ。それによって得られた安堵感と不安、両方がこれからの楽曲にも顔を出してくるだろうし、リリースの度ごとに「これ、大丈夫か?」と恐れおおのくような、臆病な自分も当然として受け入れてやれたらと思う。不安定な自己をも乗りこなして……Surfして……ゆけたらいい。
なんにせよそんな『Surf』もほかの楽曲も、聴いてくれる誰かを抜きにしては決して成立しないわけで、まこと感謝に堪えない。この『All-New Sandwiches』などなおのことであるがしかし、愛想が尽きるまではどうかお付き合い願いたい。
おしらせ
・連続配信シングル第3弾『Surf (feat. TOSHIKI HAYASHI(%C))』好評配信中
https://www.macomarets.me/single
・Eテレ『Zの選択』新エピソード 3週連続放送決定
今夜(1月26日)午後10:25~ は第3回の放送です。maco maretsは主題歌「Howl」の制作、歌唱を担当しています。