#18 ムーンダンサー

本日・5月18日はmaco marets のニューシングル『Moondancer』のリリース日。ここのとこ毎月新曲を出しているから、週一連載(しかも楽曲リリースと同じ水曜日更新)の当ブログでは定期的に曲紹介の回がまわってくる、要領を得ぬ自分語りと周囲への感謝に尽きる一連の流れに読者の皆さまはさぞ! ウンザリしているだろうけれども、やはりかリリース日になーんの関係もない話題をアップするというのも居心地わるい気がして、ええ、つまり今日も今日とてかんたんながらセルフ・ライナーノーツ未満のなにかを書きつけ「All-New Sandwiches」そのいちエントリとしたい、そんな心持ちなんである。

してくだんの『Moondancer』、これがいつも通りもごもごと適当な印象を書き連ねて終え、られればそれでも良いのだが(なぜって楽ちんだものね)そうもいかない理由があり、すでに楽曲をチェックして下すった方ならわかるかしらん、何を隠そう今回はサプライズ・ゲスト・ボーカルとして藤原さくら氏が参加している点で大いにとくべつな一曲なのやった。

※今すぐ楽曲を聴きたいという方はこちらへ→https://linkco.re/Y03ArgVb

氏との制作にいたった経緯などは、もしかするとどこかでしっかりとお話しするやも知れんのでここでは割愛するけれど、ただ学生時代から「藤原さくら」のいちリスナーであったわたしなんである、さまざまなご縁から実現した今回のコラボレーションには思い入れもひとしおふたしお、企画から半年以上の期間を経てついに皆さまにお披露目できるということで、昨夜は喜びと不安の入り混じった震えがやまず寝付けなかった。

なにしろこれはコロナ禍の2020年から作り続けた「Waterslide」シリーズ、コラボレーションという制作スタイルに重きをおいた一連の作品群全体を代表するような楽曲と言ってしまっても過言ではない。

そもそもは突如として訪れた隔離状況で、おのれと、おのれをとりまく他者との関係を見つめ直すことがこのシリーズの目的のひとつだった。今回の『Moondancer』はそうしたテーマの在りどころを、わずかながらようやく、意識的に表すことができた……そう思っている。

恥を承知で、制作時のメモ書きをいくつか下に引用してみたい(曲の内容とは異なるのでご注意を。実際の歌詞はこのブログの最後に載せておきます)。

自己と他者との関係、 ひいては知覚できる世界のすべてが 揺れ動く、

運動のただなかにある 生成変化(becoming)の途中 プロセスのなかにある



ある問いに絶対的な答えを与えることをせず

留保したままで わたしは口をつぐんでいる



当然、意味が固定されていないという その状態はおそろしく、

それは喜びにも絶望にも転化しうる しかし

喜びと絶望、他者と自己 あるいは 冷たい・熱い、遠い・近い、短い・長いなど

相反する二項を恐れながらも踏み越え

そこにあるすべてを 運動の 変化の途中にあるものとして

意味を切り分けないままに受け入れ 許すことができるかもしれない


なぜって、あなたがいるから

あなたとわたしのいまが何より愛おしく

その関係は決して二項対立のなかにはないから



喜びにも絶望にも与することなく

あなたのことも 往復する運動のなかに受け入れたい

ダンスのように揺れ動く世界のなかで

ただ 重なり ときには離れ 混ざり合っていたい

ところどころ、当時読んでいた書籍の影が覗く(たとえば「生成変化」の語彙は千葉雅也氏の近著の影響だと自覚している)が、ぜんたいを貫くのはやはり自己と他者との関係をどうとらえるか。どう態度するか、というテーマである。

それは「答え」とするにはあまりに曖昧なアティチュードかもしれない。「わたし」と「あなた」、「ぼく」と「きみ」。その関係性を、波打つ月下のダンスのように、つねに揺れ動くプロセスのなかにとらえるということ。

言うは易しというもので、そんな態度をいかにして営み行為できるのか? ここではっきりと言い放つことはもちろんできない。

しかし、わたしにとってはこの『Moondancer』の制作過程そのものが揺れ動くひとつの「ダンス」であったわけで、それはまったき「他者」として向き合いながら、ばつぐんの勘でもってわたしの言わんとするところを拾い上げ応答してくれた藤原さくら氏の存在なくしては再現できなかった関係性なのである。そう、その「関係」している状態こそを認めることができたという(ただそれだけの)ことが代えがたく、とくべつな喜びなのだった。一緒に歌うことができてよかった。感謝してもしきれない思いでいる。

それから忘れてはいけない、『Moondancer』におけるTiMT氏(過去作では「Torches」「Forest Song」「Mizu no katachi」などを担当してくだすっている)のトラックプロデュースもさすがの一言。スムースかつ情感あふれるサウンドはわたし・maco maretsと藤原さくら氏、両名のボーカルに寄り添う絶妙なバランスだった! 先ほど書いた「ダンス」が成立し得たのも、フルイドな在りようを断ち切ることなく留保してくれるような、TiMTトラックの懐の深さがあったからこそだろう。心から信頼しているプロデューサーだから、また一緒に曲を作れてうれしかった……。

さてここまで書き連ねてみたけれど時間切れ、読み返せばどうにもとっちらかった雑感に過ぎぬし、そうだ、ミュージックビデオについても触れられていない! また次回か、どこか、この『Moondancer』についてお話しできればと思う。リリースの興奮からおのれを冷ますうように、すこし時間をおいたほうが落ち着いたまとまりのある話ができるような気もしている(それをよいものとするかは別として)。

付録として、最後に『Moondancer』の歌詞を全文掲載する。


maco marets & 藤原さくら『Moondancer』
lyrics &Music:maco marets & 藤原さくら
track produce:TiMT (PEARL CENTER / Mime)
rec, mix & mastering:Keisuke Mukai


足りない僕を置いてって
あの日に全部捨てといて
柔らかな朝の陽よ

忘れる前に泣いといて
寂しいだけで引き止めて
まだそんな僕の声が聞こえた

おはよう あるいは おやすみ 交わすたび
留め置かれたままの問いはかすれる
感熱紙みたいに 記憶の地層の奥に 凝る冬日
飾る紅い頬のうぶ毛に咲いたひかりに気づき
思わずもれた吐息も 通りすぎた 風が
アッという間に拾いあげて去り
あなたの影とひとり 黙りこんだままでいる
指に触れる予感は まだ 透き通っている

Wake me wake me wake me
Wake me wake me up now

Take me take me take me
Take me at my word

A Whole new world
Call me now

待ち望んでいたい
混ざり合っていたい

流れる水にまかせ 導かれるままに
Somewhere たどり着いた覚醒の数歩前で
糸が切れたような ぷつり途絶えた音が
呼び起こしたフィアー それか もっとかよわい何か
なぜを問うたような その軛の裏の模様は言葉なのか
なにひとつ学ばなかった わたしを溶かす声は
冷たくて熱い (遠くて近い) 短い だけれど 長い
積もる静けさを払い 口開いた 理由はとくになかった
でも あなたがみていた みつめていたから
ただ ここにあることのすべてを許すような 応答だった

(打ち震えたからだ) 喜びへの倒錯
(夢にも思えた瞬間) 真昼の月と踊る ダンス
そしてダンス そしてダンス そしてダンス…

わたしとあなたが ここにあった

足りない君にホッとして
楽しいだけで泣いちゃって
柔らかな夜の緋よ

戸惑う前に聞いといて
導くように問いかけて
まだそんな僕の声も…

Dancer in the light
委ねて
指の先まで預けてみて

Dancer in the light
重ねて
言葉にはしないで伝えてみて
なんてね


おしらせ


・連続配信シングル第6弾『Moondancer』本日リリース

配信はこちら→https://linkco.re/Y03ArgVb